点紋観測

三波川変成帯で産出する変成岩のひとつに「点紋片岩」という岩石があります。

スポット状に大きく成長した曹長石がまだら模様のように散りばめられたこの岩石は、野外でも一際目立ち、その神秘的な風貌は多くの人を魅了してきたことと思われます。

変成度や変形の定性的指標にもなることから、三波川帯研究では古くから注目されてきました。

曹長石–緑簾石–普通角閃石片岩 (高知県本山町汗見川 三波川帯)

点紋片岩の原岩が玄武岩質なものであればこのようなゴマダラ模様の塩基性片岩として産出することになりますが、原岩が泥質であると曹長石には炭質物の包有物が多量に含まれ、いわゆる黒色片岩などとして産出します。

calcho.hateblo.jp

今回は、鏡下でも大変美しいこの「点紋片岩」の薄片の紹介です。

毎度のことながら、標本は高知県の汗見川沿いで採集しました。汗見川まで遡上せずともこの地域には吉野川沿いに手のひらサイズの点紋片岩が無数に転がっています。

以下、面構造に垂直・線構造に平行な薄片の画像です。

斜長石斑状変晶 (平行ニコル)

斜長石斑状変晶 (直交ニコル)

構成鉱物は石英曹長石、緑簾石、普通角閃石、ルチルととても単純です。

曹長石には微細な緑簾石や石英などが無数に包有され、それらが内部面構造を規定しています。結晶内側ではほぼ直線的な内部面構造は、周縁部で急角度で湾曲する傾向があります。

斜長石斑状変晶に発達する内部面構造と石英のプレッシャーシャドウ

直交ニコル+鋭敏色検板
大地の脈動すらも聞こえてくる。

石英曹長石のプレッシャーシャドウに存在する場合がほとんどで、基質の他の部分にはあまり存在しません。

普通角閃石

普通角閃石は板状に細長く成長しており、これもまた美しい多色性を示します。

緑簾石

毒々しいと評される緑簾石の干渉色もここでは極彩色を奏しています。

 

ゴマダラカミキリ (長野県軽井沢町 浅間山中腹)

転がる輝石、君にスコリアが降る

薄っすらと秋の影が感じられるようになった8月の終わり頃に訪れた巡検先の記録です。

国内に多数ある普通輝石の産地のなかでも特に有名な、長野県南牧村の平沢峠周辺の火山岩を観察しに行きました。

八ヶ岳を望む眺望

普通輝石の自形単結晶を簡単に採集できる、非常に有名な産地ということもありネット上には多くの採集記が転がっています。

様々な双晶を観察できるだけでなく、最大約1 cmの粗粒な結晶も探せば見つかります。

母岩から自然に単離した無数の普通輝石

以下、岩石の紹介です。

本露頭は八ヶ岳の東方に位置する飯盛山 (めしもりやま; 1643 m) 麓にあります。飯盛山自体は新生代第三紀鮮新世飯盛山火山岩類 (河内, 1977) からなり、安山岩質な火山岩から構成されています。

普通輝石の粗粒自形結晶が含まれる岩相は同論文で平沢スコリアとして飯盛山火山岩類からは区別して分類されており、降下スコリア堆積物として記載されています。露頭ではパン皮状火山弾など不均質な構造を多数観察できます。

鉱物採集のついでに普通輝石を多く含む母岩の転石を採集し、薄片化してみました。

普通輝石 (平行ニコル)

普通輝石 (直交ニコル)

普通輝石の双晶と累帯構造が確認できます。普通輝石内部には磁鉄鉱が多く含まれています。斑晶鉱物はほぼ普通輝石と斜長石によって構成されており、直方輝石やかんらん石、石英は見つかりません。また茶色の火山ガラスが明瞭に認められます。

斜長石 (左:平行ニコル、右:直交ニコル)

斜長石にも光学性の違い (~化学組成の違い) に由来する累帯構造と微細な包有物が規定する累帯構造の2つが観察できます。

普通輝石・斜長石・火山ガラス (左:平行ニコル、右:直交ニコル)
普通輝石・斜長石・火山ガラス (左:平行ニコル、右:直交ニコル)

産地には鉄道と無料バスのみで行くことが可能です。中央本線の早朝ダイヤの名物列車、八王子発・普通松本行 (429M) は特におすすめで、首都圏ではもはや見ることのなくなった211系や笹子トンネル、日野春での特急通過待ちの長い停車時間、地方の朝方の通勤通学の空気感など、時間を忘れて非日常を楽しめます。

大月までは富士山方面に行く人で座席が埋まる程度には混んでおり、そこから甲府までは通勤通学の利用が増加しますが、それ以降はほとんど乗客がいません。ぜひ利用してみてはどうでしょうか。

211系429M (八王子駅にて)

日野春駅にて