岩石研磨標本をスキャンしてみた

なかなか巡検に気軽に行けるようなご時勢でもないので,家にある岩石の研磨標本をプリンターのスキャン機能を使って画像ファイルにしてやりました.薄片の写真は全て過去に記事にしています.

どれも今年の前半に一人で採りに行ったもので思い入れもあるので,少々コメントを付けておきます.

 

木呂子角閃岩

 

2月上旬に採りに行きました.ルートマップを頼りに露頭を探しながら,ようやく見つけた岩石です.埼玉で角閃岩というと,ここと吉見くらいしかないと思うのですが,自分は車の免許を持っていないので出来るだけ鉄道で行けるこちらを選びました.朝日の射し込む八高線ディーゼル車に揺られながら未だ見ぬ「角閃岩」なるものに胸が躍りました.

無事露頭に着いたはいいものの,角閃岩が非常に硬くてピックハンマーで採るのは大変でした.周囲の岩相は蛇紋岩だか強い剪断変形を受けた緑色岩だかが大半を占めていて当時は全然見分けられませんでした.画像だと分かりにくいのですが,角閃石は若干定向配列を示していて,薄片上の斜長石は強い波動消光をします.

埼玉でもこんな高変成度の変成岩が採れるということ,また地上に岩石が上昇してきたという事実に純粋に感動しました.おそらくこの角閃岩は,私が変成岩に興味を持つ最初のきっかけだったのでしょう.

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長辺約10 cm

紅簾石石英片岩

 

嵐山町で採った紅簾石と白雲母,石英を含む珪質片岩です.露頭の情報が少なく,地質図を頼りに探しました….武蔵嵐山駅から峠を越えないとたどり着けないということを知らず,露頭に着く頃にはかなり体力を消耗していました.真っ赤な石が目の前に現れたときは本当に嬉しかったのを覚えています.河原沿いの露頭で,40年ほど前からここに来ているという方(岩石採取が目的ではない)とこの岩石や昔の露頭の景観についてあれこれ語ったのは良い思い出です.こういう思いがけない出会いこそソロ巡検の醍醐味です.

それからなんといっても,自分の目で,長瀞と同じ岩石が南東に数10 km離れた嵐山でも見られてようやく,三波川帯が広域変成帯であるということを実感できました(西には800 km近く延々と続くのですが…).

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長辺約10 cm

ひすい輝石石英

 

期末の試験勉強に飽き飽きとしていた1月中旬に採りに行った岩石.露頭の岩体には視認できるほどの石英脈が走っている一方,ひすい輝石は肉眼では全然わかりません.何しろ非常に細粒で研磨してやっと反射の仕方で分かったくらいなので.鏡下でひすい輝石を見るのはこれが初めてだった訳ですが,バイレフが低すぎて初見では輝石だとは思えませんでした.岩石の大部分を占める石英は見たこと無いくらいの強い波動消光をしていてとても興奮したのを覚えています.

どういった原岩がどういった条件の変成作用を受けて,いつこの岩石が生まれたのかは今でも気になります.

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長辺約11 cm

 

トーナル岩

 

言わずと知れた秩父鉱山の鉱床を齎した,埼玉は秩父中津川のトーナル岩です.いつもありがとう!渦の沢の滑沢の岩盤から採取しました.カリ長石がほとんど見当たらず,同程度の石英と斜長石から成るこの岩石ですが,石英閃緑岩に分類されるものもあるかもしれません.

前述のひすい輝石石英岩中の石英とは全く異なり,こちらは波動消光は全く示しません.有色鉱物の多くは角閃石で,黒雲母が少し含まれます.

こいつを採って以来,街中の花崗岩質建材を薄片にしてやりたくなりました.

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長辺約5 cm