今回は3年前に訪れた、関東山地東縁の嵐山渓谷で採取した泥質片岩 (黒色片岩) の薄片を作りました。
というのも、岩石試料を整理していたところ、他の試料にくらべてあまりにもサンプルが黒かったため、含有鉱物をこの目で確かめておきたかったからです。
埼玉県嵐山渓谷の三波川帯結晶片岩 - Склад Памяти
本地域は三波川変成帯の岩相の分布域、すなわち九州佐賀関~四国~近畿~中部~関東山地の約800 kmに亘る露出域の最東縁にあたります。
アクセスこそ悪いものの、水平に近い傾斜を持つ片理面が長瀞の岩畳にも劣らぬ美しい結晶片岩の地質を織りなしています。
イチオシは紅簾石 (厳密にはおそらく含Mn緑簾石) を含む石英片岩で、岩石薄片を3年前の記事で紹介しました。
嵐山渓谷の結晶片岩は主に①泥質片岩、②珪質片岩、③苦鉄質片岩の3種からなります。
これら結晶片岩類の分類は全岩組成や見た目の色、鉱物集合などいくつかの基準があり、一つの結晶片岩のサンプルに対し多くの命名が適用可能です。
たとえば嵐山渓谷の結晶片岩であれば、上の①は黒色片岩や石墨片岩、②は石英片岩、③であれば緑色片岩や塩基性片岩、緑泥石片岩などと命名することが可能で、時と場合に応じて使い分けられます。
冒頭でも述べましたが、今回は3年前に採取した嵐山渓谷の泥質片岩の薄片を作成したので、その紹介になります。
上の画像ではっきりと分かるように、スポット状の"なにか"がびっしりと散らばっています。
個々の結晶の外形は斜長石のものですが、その色はあまりにも黒い…。
ただ、薄片にしてみるとその原因は一目瞭然でした。
サンプルの黒は石墨 (グラファイト) を原因とするもので、本結晶片岩試料が沈み込んだ泥質堆積物を起源とすることを示しています。
石墨に結晶化しているかどうかは確かめていないので、炭質物と言った方が良いのでしょうか。
鉱物集合は、曹長石+炭質物+石英+緑泥石+白雲母+カリ長石+楔石+ざくろ石 (極少量)で表せます。
斜長石 (曹長石) には基質の面構造と連続するように見える炭質物の内部面構造が確認でき、直線的な配列を示します。ときおり、ざくろ石も包有物として含まれているのも特徴です (本地域の泥質片岩はざくろ石帯に産出)。
そのほか、微細褶曲構造も強く発達しており、こちらは標本スケールでも確認できました。
Ca-Ti相として楔石 (titanite / sphene) も斑状変晶や曹長石中の包有物として含まれています。
とくに珍しい鉱物ではありませんが、薄片に居る時の安心感は大きいです。
黒色片岩≒石墨片岩≒泥質片岩であることが良く分かり勉強になりました。感謝感謝。
それにしても黒い。