プレート沈み込み帯での低温高圧下で形成された変成岩は、紅色や藍色、緑色とカラフルな産状を示すことがしばしばあります。
それら岩石の薄片の偏光顕微鏡観察をおこなうことで、発色の原因となっている鉱物を同定することが可能です。
とくに、埼玉県長瀞の岩畳や、本ブログでも以前紹介した同県嵐山渓谷などで見られる「紅簾石石英片岩」は、野外で出くわす機会が多いだけでなく、おそらく造岩鉱物のなかでもっとも顕微鏡下での鑑定が簡単な「紅簾石」を含む低温高圧型の変成岩として知られます。
今回は以前、高知県本山町の汗見川で採集した三波川帯の紅簾石石英片岩の薄片の紹介です。
水に濡らした岩石サンプル (上の1枚目の写真) の色は非常に印象的で、野外での存在感もひと際です。
薄片化作業の大まかな手順は、
① 岩石サンプルのチップ整形
② 整形した岩石チップの片面研磨とプレパラートへの貼り付け
③ 貼り付け後の切断 (~0.5-1.0 mm)
④ ~30 μmまで研磨 (次第に研磨剤の粒度を細かくしつつ)
といった具合です。
内容自体は一見簡単そうですが、④はそれなりに練度が要求されます。
自分自身、最初の薄片の出来はそれはもう酷いものでした。
以下、面構造に垂直な薄片の写真です。
このように、紅簾石は平行ニコルで紅色~黄緑色の非常に特徴的な多色性を示し、その高屈折率も相まって同定しやすい鉱物です。
Ca2Al2MnSi3O12(OH)で表される紅簾石の組成式中のMn(III)がその要因なのでしょう。
黒色の不透明鉱物、おそらくブラウン鉱をともなう産状が特徴です。
また、薄片の載るステージを90度回転させてみると、黄緑の色調が増すような感じがします。偏光は画像上下方向に振動しており、紅簾石の長軸に対する白色偏光の吸光度の関係がなんとなくわかります。
そのほか、本地域の紅簾石石英片岩は炭酸塩鉱物も少なくありません。
以前作成した埼玉県嵐山渓谷の紅簾石石英片岩は炭酸塩鉱物を含まなかった点とは対照的です。
3鉱物同士の美しい屈折率のコントラストを堪能できます。
緑簾石グループの鉱物には桃簾石 (thulite)や単斜桃簾石 (clinothulite)という、紅簾石と同様の含マンガン鉱物が存在するらしく、どうやら鳥肌が立つような桃色を示すようです。
どれくらいMnが含まれているのかを具体的に知ることができればさらに面白いでしょう。