今回の岩石薄片は前々回の記事とおなじく、高知県中北部を流下する汗見川で採取した変成岩、紅簾石石英片岩です。
(なお、本記事でも含Mn緑簾石/紅簾石問題には立ち入りません。)
実は前々回の紅簾石石英片岩は転石ですが、今回は露頭採取したものです。
「曹長石-黒雲母帯」という、泥質片岩に曹長石 (NaAlSi3O8) と黒雲母 (~K2(Mg,Fe,Al)6Si6-5Al2-3O20(OH)4) という鉱物が共生する地域が採取地です。
これより高い変成度の地帯では、泥質片岩中で黒雲母と共生する曹長石中のCa成分が増加しており、「灰曹長石-黒雲母帯」と定義されています。
以下、薄片写真です。薄片は片岩の面構造に平行、かつ伸長鉱物の伸びに平行です。
淡白で低屈折率の石英のマトリックス中に、黄緑色~紅色の鮮やかな多色性を示す高屈折率な鉱物が紅簾石です。
画像上下方向が片岩の面構造 (片理面) に対応しており、紅簾石の長軸・板状の白雲母が面構造を規定していることがよく分かります。
特筆すべきは、前々回記事の紅簾石石英片岩は炭酸塩鉱物を沢山含んでいたのに対し、今回の紅簾石石英片岩や埼玉県嵐山町嵐山渓谷で採取した紅簾石石英片岩は炭酸塩鉱物に極めて乏しい点があります。
紅簾石。他にも燐灰石や白雲母、黒色鉱物が共存します。
石英片岩にも曹長石は出現します。上の2枚の画像は紅簾石を包有する曹長石です。
被包有紅簾石にはマトリックスの面構造に連続する伸長したものが認められ、変形と同時成長したことが想像できます。
マトリックスの石英は強い(延性)変形を受け細粒に再結晶しており、各粒子の境界=粒界も不規則です。くわえて粒子内の波動消光も顕著です。
美しいばかりでなく、地下深部のダイナミックな岩石の変形も実感できる岩石でした。