関東地方に住んでいる方は,三波川帯の結晶片岩と言えばまず長瀞を思い浮かべることでしょう.
ところがいざ採集して薄片にしようと思ったときに,長瀞の結晶片岩が存在するエリア(親鼻橋~高砂橋)は国指定名勝・天然記念物となっており,そもそもそれが出来ません.
そこで埼玉県内で広く結晶片岩が見られ採集も可能な別の場所を探すと,県中部嵐山町の嵐山渓谷がヒットしました.
今回は主に紅簾石を含んだ石英片岩の採取と薄片での観察を行いました.
嵐山渓谷について
嵐山渓谷は埼玉県嵐山町とときがわ町の境を流れる槻川沿いに位置し,槻川による削剥で谷状の地形になっている地域です.
嵐山渓谷へのアクセスは,東武東上線武蔵嵐山駅から徒歩40~50分といったところです.途中峠を越えるので徒歩の場合相当疲れます.
この付近の地質は,産総研地質図Naviによれば
“形成時代:中生代前期白亜紀アルビアン期~新生代古第三紀暁新世セランディアン期”
“岩相:泥質片岩 高P/T型広域変成岩 ざくろ石帯 ”
です.
「ざくろ石帯」は,泥質変成岩が見られる変成地域を分帯する際に用いられる区分の一つで,「ざくろ石+黒雲母+緑泥石+白雲母+斜長石+石英+緑簾石」のような鉱物組合せで特徴付けられます(周藤・小山内,2002).
長瀞の岩畳とまではいきませんが,立派な結晶片岩が槻川沿いに広く分布しています.
結晶片岩類
現地で撮影した岩石の写真です.(7枚)
岩石サンプル
採取してきた岩石の写真です.(5枚)
薄片
紅簾石石英片岩の面構造に平行な薄片と垂直な薄片を作成しました.
面構造に平行な薄片
(上2枚:50倍)
濃紅~黄緑色 の鮮やかな多色性を示す板状結晶が紅簾石で,他はほぼすべて石英です.
(上2枚:100倍)
紅簾石の拡大.紅簾石はクロスニコルにすると自身のもつ色と干渉色が混ざり分かりにくいのですが,緑簾石の干渉色に非常に似たものを見つけました.
面構造に垂直な薄片
(上2枚:50倍)
白雲母と石英.
(上2枚:50倍)
紅簾石と石英のほか,不透明鉱物の脈があります.何でしょう…?
黄鉄鉱あるいは赤鉄鉱でしょうか.
この春休みは関東地方の三波川帯に焦点を当ててみたいと思います.